日本でもっともユーザー数の多いDAWソフト「Cubase」の特徴[記事公開日]2023年8月29日
[最終更新日]2023年08月30日

Cubase8

CubaseはドイツのSteinberg社によるDAWソフト。数あるDAWソフトの中でも主要なものの一つに数えられ、日本ではもっとも使用ユーザー数の多いDAWソフトとして知られています。Steinberg社は現在ヤマハの傘下にあるため、ヤマハ製品に廉価版が付属していることも多く、Cubase AIやLEなどは一度は使ったことのある人も多いのではないでしょうか。

CubaseとSteinbergの歴史

現在のSteinbergは1984年に設立されたSteinberg Research有限会社に端を発し、Cubase 1.0は1989年に発売されました。その後、1991年にCubase Audio、95年にWabeLabと優れたソフトウェアを矢継ぎ早にリリース。特に前者のCubase Audioはコンピューターに直接オーディオを録音して音楽を制作するという、当時としては画期的な機能を持った製品として大きな意味を持ちました。そして、96年にはVSTの名を冠するCubase VSTを発表。エフェクトをプラグインとしてコンピューターの中で利用する、現在のDAWソフトに近い機能をついに有するに至りました。その後もCubase SX、Cubase Studioなどの下位グレード製品への展開を経て、2014年には現在にまで続くCubase Proの発表が行われます。

現在のSteinbergは、当時より続くCubaseシリーズやWaveLab、さらにモバイルアプリ用のCubasis、ソフトシンセのHALionやドラムサンプラーGroove Agentなどの製品を加えた多数のソフトウェアをラインナップ。今も拡充と洗練を続けています。

Cubaseの特徴

スタンダード規格の先駆者

SteinbergがCubaseを通して提唱した規格には有名なものが2つあります。VST(Virtual Studio Technology)とASIO(Audio Stream Input Output)です。

VSTは音声加工のプログラムをホストアプリケーションの枠内で扱えるようにするための規格で、主にエフェクトとしてのVSTプラグイン、ソフトウェア音源としてのVSTインストゥルメント(VSTi)がよく知られています。ASIOはOSと音声とのやり取りを低レイテンシーで行い、かつ多チャンネルに対応させるための規格で、オーディオインターフェースのセットアップやDAWとの連携の際に必要不可欠な存在です。

これらはパソコン上で音楽制作を行うために現在当たり前のように使用されており、別規格を使用するApple LogicやProToolsなどの使用者を除くと、ほとんどのクリエイターがその恩恵を受けているはずです。この2つの規格はCubaseはもちろん、DAW、DTM全体を語る上でも切り離せない非常に重要な存在なのです。

国内最多のユーザー数

数多くのオーディオ製品に付属している、Win、Macに両方対応している、などの理由もあってか、国内でのシェアは圧倒的です。それゆえに個人ブログや教本などの数が非常に多く、操作に困ったときやTipsなどの情報が得やすいのは大きなメリット。実際のミキシングを研究、勉強する際にもお手本がCubaseであることは多いため、同じプラグインが使える場合もあります。また、プロジェクトを複数人で制作する際にファイルをそのまま使えるとなれば、それがそのまま生産性に直結します。

国外ではEDM、ヒップホップなどが業界の主流となっているためか、最多ユーザー数の地位はAbleton Liveに譲りますが、正統派DAWソフトとしてのシェアは世界的に見ても低くはなく、映画音楽家のハンス・ジマー氏など、愛用者はプロアマ問わず数多く存在します。

映画音楽の巨匠、ハンス・ジマーの音楽を再現するソフトウェア音源

付属ソフトとしてのCubase

冒頭で述べた通り、親会社であるヤマハの製品には基本的に無料版であるCubase AIが付属している事が多く、それ以外のメーカーの製品にもCubase LEが付属しているものは少なくありません。この付属ソフトとしてのシェアもCubaseは高く、その製品類はオーディオインターフェースやMIDIキーボードはもちろんのこと、ギターアンプや電子ドラムなど、およそDTMに直接関係のないものにまで及びます。これからCubaseを試してみたいという方は、バンドルを狙ってそのような機材を候補にいれるのもおすすめです。

数多くの付属プラグイン

Cubaseは歴史あるDAWソフトであり、その中で培われてきたプラグインが多数付属しています。特にエフェクトプラグインは優秀で、Proでは80あまりに上るあらゆる種類のものが付属しており、それだけで十分にハイクオリティな音源が作れるほどです。反面、ソフト音源であるVSTインストゥルメントはHalion Sonic、Groove Agentを除きシンセ系に寄っており、人によっては弱さを感じることがあるかもしれません。

Cubaseのラインナップ

Cubaseには無料版を合わせると、計5つものグレードがあり、少しややこしいラインナップになっています。


Pro

Artist

Elements
AI LE
特徴 最高グレード
VSTi、エフェクト含め膨大な
数の付属プラグインがある。
中位グレード
トラック数は無制限
付属プラグインも申し分なく、
これでも十分な制作が可能。
下位グレード
トラック数に制限があり、
プラグインも少ない。
主にヤマハ、Steinberg製品に付属。 サードパーティ製品に付属
トラック数の制限が著しく、
制作には不向き。
トラック数 オーディオ:無制限
VSTi:無制限
オーディオ:無制限
VSTi:無制限
オーディオ:48
VSTi:24
オーディオ:32
VSTi:16
オーディオ:16
VSTi:8
実勢価格(およそ) ¥50,000 ¥30,000 ¥10,000 無料 無料

2023年8月時点

真剣な音楽制作を視野に入れる場合は迷わずProを選びましょう。付属プラグインやサウンドの数が段違いです。あまりエフェクトをたくさん使わない、またはサードパーティ製のプラグインを多く追加する予定があるのであればArtistでも事足りるでしょうし、制作ではなく練習や編集などをメインとするライトユーザーであればElementsを試してみるのも良いでしょう。AI、LEでもサードパーティ製プラグインの追加はできますが、トラック数の制限が厳しいため注意が必要です。

付属プラグインなど

Cubaseに付属するプラグインから一部を紹介します。

Tube Compressor

真空管のコンプレッサーをモデリングしたアナログ系コンプ。音量を揃えるという以上に質感を変えるために使用することが多いアナログコンプですが、純粋にサチュレーションを追加するためのDrive、音色に明るさを加えるCharacterなどを操作することでそのまま音質をコントロールできるため、狙った効果が得やすく使いやすいプラグインです。

RoomWorks

Proに付属するリバーブ。ナチュラルな掛かり方が特徴で操作も簡便、かつ低負荷と、非常に使い勝手がよく、Cubase付属エフェクトの中でも高い人気を誇る逸品です。Cubaseの歴史においてはもっとも長いあいだレギュラーとして活躍するプラグインで、外観、UIもほぼ変わらず20年近くも付属し続けています。登場時点でそれだけの完成度の高さを持っていたことの裏返しであり、Cubaseシリーズを代表するエフェクトプラグインです。

VST Amp Rack

ギターアンプ、キャビネット、エフェクターのシミュレーター。実際に演奏したテイクに掛けたりする他、MIDIトラックに掛けることでそれらしいサウンドを作り出すこともできます。同種のものは現在では大抵のDAWソフトに付属していますが、このVST Amp Rackは品質も高く、有名なギターアンプモデルはほぼ網羅しているため、様々なサウンドや曲調に対応可能です。

REVerence

Cubase付属のIRリバーブ。IRリバーブは実際の場所での響きをデータとして使うリバーブで、通常のリバーブでは得難いリアル感を伴います。このREVeranceも付属ソフトの枠にとどまらないほどのIR特有の高いクオリティを持ち、メインのリバーブとして十分に使える品質を保持しています。反面、コンピューターの負荷が高く、中域が強く密度が濃いため、少々重たく感じるのも事実。前述のRoomWorksとの使い分けは肝となってくるでしょう。

Groove Agent SE

付属しているインストゥルメントの中でも唯一のドラム専用音源がこのGroove Agent。原理はドラムのサンプルを読み込んで鳴らすためのサンプラーですが、数多くの高品質なサンプルがすでに用意されており、使えるリズムパターンもかなりの数内包されています。特にロック系のサウンドに強く、ジャンルを選んでパターンを貼り付けるだけで、ドラムに疎い人でも簡単にパワフルなドラムトラックを構築できるでしょう。パラアウトも可能で、Cubaseの付属音源の中でも一、二を争う人気の音源です。

Halion Sonic SE

ピアノやギターはもちろん、ヴァイオリンやフルート、サックス、シンセ、はては民族楽器まで多彩な楽器を一つで賄う総合音源。Proでは初期時点で1,500以上の音色が用意され、シンセがメインの音楽以外ではまさに生命線。総合楽器メーカーである親会社のヤマハの力もふんだんに注ぎ込まれた高い品質には定評があり、Cubase付属音源の中心になる存在です。内部で16トラックに分けて使えるマルチティンバー音源となっており、トラック数に制限の多い無料版のCubaseでもこれを使えばうまくやりくりすることも可能です。